2013/12/19/

『何もない、』

 

ケイタくんは校舎の三階から飛び降りた。

幸いにも飛び降りた先には植え込みがあって、ケイタくんは桜の樹の枝を突き破って花壇に整えてある低い木の植え込みにお尻からめり込むだけで大事に至るケガはなく済んだ。

しかし、落ちた先には小学一年生の教室があって、それはもう酷い騒ぎっぷりで、その日の内にケイタくんが飛び降りた話は全校生徒にいきわたっていた。

ボクはケイタくんが校長室で彼の母親と出てきたのを見かけた翌日にケイタくんに何故飛び降りたのか聞いてみた。

すると、昨日の騒ぎなんて何でもなかったかのようなさっぱりとした顔で

「二階だと危険じゃなさそうだからな」

と、ケイタくんは言った。

「…そんだけ?」

「そう。」

今度はきっぱりと言った。

「じゃあ、四階でもよかったんじゃないの?」

すると、困ったような顔で

「あれは痛そうだから」

と、自傷気味に笑いながら答えてくれた。

そんなケイタくんの顔を見ていると、ふと、去年の夏の暑かった頃に鳴いていた蝉の声を思い出した。

(さらに…)